インタビュー

常に世の中の潮流を読む。長く必要とされ、使われる漆器を目指した作品作り。

手塚英明Hideaki Tezuka
ちきりや手塚万右衛門商店

寛政年間に創業し、七代200年の歴史を持つ「ちきりや手塚万右衛門商店」。
代々伝統技術を受け継ぎながらも、常にその時代にあった新しい感覚を取り入れた
作品を発表し、木曽漆器の発展に寄与。

取り組みたい、今までと違う漆器作りに。

インタビューに答える手塚さん

手塚万右衛門商店の七代目として、家業を継がれる時はどのような心境でしたか?

木曽平沢で生まれて、子供の頃から工房が遊び場でした。生活の中に漆器があった。家業を継ぐ、という意識が芽生えたのは高校生ぐらいですね。その頃は何か使命感があってというわけではなく、自然な流れで。大学で上京して、新卒で漆器問屋に就職するわけですが、仕事を通していろんな業種や分野の方々と知り合う機会があって。社長の運転手やりながら、人間国宝の方のところへ行って何かお話ししたり、ものを売ったり。あとはデパートの催事を任せてもらって、製品の選定から販売をやったりもしました。

その後、地元に戻ってきた時に感じたのは、もっと木曽漆器に現代の生活様式を取り入れることをしないと、使ってもらえないだろうなと。社会は目まぐるしく変わっていて、伝統的な漆器作りだけでなく、今までと違う漆器作りに取り組みたいと思った。そこがある意味では出発点でした。

店内の様子
店舗外観

守っているだけでなく、常に攻めている。

実用性と芸術性を兼ね備えた唯一無二の作品

手塚さんは作り手であり売り手でもあります。漆器の製品を作るにあたり大事にしてきたポイントはなんですか?

伝統で受け継いでいくものの中に、その時その時の新しさを入れるようにしています。これは私だけじゃなく、ちきりやの当主が代々受け継いでいる考え方で。先々代になりますけど、あけびづるの「いちらく編み」でベルギー万国博覧会のグランプリをいただいているとか。そういうものもあったわけです。守っているだけでなく、常に攻めている。使ってもらわなければしょうがないわけです。

私の代になってからは、現代生活における空間を考えました。食や住空間。近代化して昔ながらの柱から壁へ、採光性も上がった。部屋自体が白くなっていくなあとかですね。そこで色合いを考える。また、日本的な「重ねる・収める・畳む」という様式を取り込んだりなど。常に世の中の潮流を読み、長い目でみても必要とされ、使われる漆器というものを目指してやってきました。

カラーバリエーションも豊富な作品

一生涯使える、漆器シリーズ「畢生(ひっせい)」。

漆器シリーズ「畢生」

手塚さんの作られた漆器シリーズ「畢生(ひっせい)」について教えてください。

自分の子供が食を始めたころ、「あれ、箸の長さが長すぎないか」と。ちょうど良い箸の長さを測っていったら12cmくらいだったんです。次に、お椀。通常の規格が大きすぎたので小さなお子さんでも食べられるサイズのものを開発しました。そうしたらある日、ご高齢の方が「大人のお椀だと大きすぎるし、子供のお椀だと小さい、その中間くらいのが欲しいのよ」と。そうやって製品開発するうちに最終的には10サイズ。一生涯使える、ということで「畢生」

近年は漆製品を持たないご家庭も増えています。なるべく小さな頃から漆器の温もりを知っていただき、大人になった時にまた漆器を手に取るような、そういった流れもできるといいなあと考えています。

使えば使うほどその人ならではの味が出る面白さ

漆製品の魅力について教えてください

漆は使っていくうちに変化する性質(経年変化)を持っているので、その人ならではの味が出てきます。拭き方や扱い方が反映されます。

あるお客様はツルっとした漆器は神経を使うためしまいこんでしまっているそうで。もったいないなあと。そうしたことがわかってからは、あえて刷毛のザラザラ感を残したラフ塗り(乱根来塗等)を施す製品も作りました。

陳列棚のところにもありますが、私が作る製品はいわば「半完成品」なんです。最後の仕上げ工程を行うのは使われる方ご自身です。使えば使うほどその人ならではの味が出る面白さをぜひたくさんの人に知っていただきたいです。