インタビュー

漆に魅せられ、その可能性を自分流のやり方で追求する職人ご夫婦。

石本則男・愛子Norio Ishimoto, Aiko Ishimoto
うるし工房 石本玉水

粗相の美 − 松明塗(しょうみょうぬり)

艶を消し刷毛目を残し、大胆に塗り上げ、一つ一つ違った表情をもった手作りの逸品です。使いやすく、人に優しい作り手自身が“使いたい物”から生まれた普段使いの器です。うるしの語源「うるわし」その言葉どおりの漆に魅せられて・・・、漆の可能性を求めてチャレンジしていきたいと思っております。

作品を作る則男さん
石本ご夫婦のギャラリー兼工房

夫婦で工房を営んでいるのですね。

共に職人をしていますね。手掛けるのは、赤と黒で彩る「松明塗(しょうみょうぬり)」。ジーパンのように、カジュアルな普段使いを提案しています。

そして、漆面に彫った溝に、金箔や細かい金粉をすりこむ沈金(ちんきん)技法や、オリジナル技法「伏漆彩沈金(ふししっさいちんきん)」で描いたオブジェや壁画です。作品は店頭や個展に並びますが、ご依頼に応じた制作もしております。

荒々しさのなかにある美しさ ”粗相の美” を、感じていただければ嬉しい。

則夫さんの手掛ける「松明塗」について教えてください。

力強く、ごいごいっと粘っこい漆を塗って、ハケ目を残した大胆な塗り方が特徴だね。日本産の木をベースに、お椀やお皿、花器などの日用品を制作しています。ハケを動かした方向によって残るしま目が、模様のように残りますんで、光に当たったときにも動きが出る。同じものはひとつとして無いですね。木曽の山中で駆け回った将軍、木曽義仲に思いを馳せて、松明の灯りをイメージしています。

100人中100人に好かれなくてもいいから、何人かに、この荒々しさのなかにある美しさ ”粗相の美” を感じていただければ嬉しいね。 気楽に使ってもらえるように、丈夫につくっています。

則男さんが松明塗で作った漆器
則男さんのギャラリー

現代の生活に溶け込むように。そんな思いから編み出した技法。

愛子さんの手掛ける「伏漆彩沈金」について教えてください。

金や、プラチナ、顔料を混ぜた漆を塗り重ねて、のみで鮮やかな絵柄を削り出していく独自に編み出した技法です。伝統的な沈金を、現代の生活やインテリアに溶け込むように飾っていただきたい、漆の居場所を作りたいと思って、絵画のように豊かな色彩で表してます。

施設や会社ロビーに飾るものだと、10mを超える作品もありますね。デザインを決めるまでに、その地に巡る四季の情景を知っておきたいので、何度もその地を訪問しています。また、飾る場所や思い、好みの景色や雰囲気もお伺いして、デッサンを重ねていきます。

漆の色彩の表れ方には制約がありますが、制約を感じさせないように見せるのが難しいところ。漆の概念を飛び越えながらも、漆に特化した技法だね。漆が好きな私にできる、新しい繊細優美な表現方法です。

作品を作る愛子さん
愛子さんのギャラリー

漆には、気持ちを豊かにする力がある。

漆の魅力はどういったものでしょうか。

殿様に献上するような、ピッとして引き締まった緊張感のある仕上がりにもなるし、荒々しい仕上がりにもなる。いろんな楽しみ方ができるのがいいね。あとは日常使いにも適しているところですね。割れにくくて、もし欠けたとしても掃除が楽なんで、地震が多い日本に適する素材だね。あとは自然の恵みなので、安心安全。使っていくうちに朽ちてはいきますが、その朽ち方も綺麗なので、楽しんでもらえりゃいい。気持ちを豊かにさせる力も持っているんじゃないかな。

沈金技法で則男さんが作った作品。