インタビュー

信州の豊かな自然からインスピレーションを受けた作品作り。

深井 公Hiroshi Fukai
深井蒔絵工房

高い山々に囲まれた信州に生まれ育ち、時々山を眺めたり、山歩きしながら、岳からいただいた自然の恵みを師匠から受け継いだ漆の技で料理して、楽しく仕事をしております。

インタビューに答える深井さん

家業を継いで、蒔絵職人に。

経歴について教えてください。

父は石川県輪島の出身で、この地で蒔絵(まきえ)技術を伝えるように頼まれて、こちらに拠点を移しました。私は家業を自然に継ぐことにはなったのですが、50年経って振り返ってみても、そんなに嫌ではなかったかな。

職人としての技術や見識は、親ももちろんですが、平沢にある塩尻市木曽高等漆芸学院にて後継者の育成に尽力されていた、杉下繁先生から教わることは多かったですね。東京で開かれるトップクラスの展示会にも何度も連れて行っていただいて、漆の持つ自由に自己表現ができる力を、当時から感じることができました。漆に対する世界観が広がりましたね。今では、私も漆芸学院で教える立場となっています。

鳥をモチーフにした作品

「この地に住む人間として、この地に沿った利点を活かしなさい」

杉下先生から受けた影響はありますか?

杉下先生はそれぞれの職人が持っているいいところを見極める力を持っていてね。「いいところを極めろ」と言う人だったね。アドバイスもあったけど「考えなさい」とよく言われましたね。

あと「この地に住む人間として、この地に沿った利点を活かしなさい」と言われましたね。私はたまたま山が好きだったので、山に登って見える景色や小動物のモチーフを追究すれば絵になるのではないかと思いました。

アルプス、八ヶ岳、御岳山に登ってスケッチをして、その時に感じた印象も記録しておくんですね。いまでも頭に焼き付いている景色もあります。ほとんどの作品は、自然から影響を受けていますね。

深井さんの作品
深井さんの作品

作品について教えてください。

絵画パネルや、器を作っています。凹凸があり、盛り上がっているから油絵のようにも見えることがあるけれど、錆土(さびつち)を重ねてボリュームをつけているんですね。錆土は地元でとれる、鉄分を多く含んだ細かい土のこと。漆と合わせてペースト状にして用いる技法は、この地で発展してきたものだね。

錆土は、ハケや絵筆、習字筆などを使いわけて細かいタッチを出したり、その上に金紛や銀粉を置く蒔絵技法を施したりしています。さらに細い筆を使って、漆で花を描いてみたり、漆を塗り重ねてみたり、擦ってみたり。貝で輝きを出すことや、卵の殻で雪や花に見立ることもあります。多様な表現方法がありますね。

批判もある。でもどこかで共鳴してくれる人がいるはず。

作品作る深井さん

作品作りで大切なことはありますか?

作品作りで大切なのは、根性だね。漆は乾くのに時間がかかるし、過程も多いから、作り始めたのが冬だったら、完成が夏になることもあるからね。コンセプトを頭に置いておかないと、完成までこぎつけないよ。そして作品作りは、苦労もあるけれど自由だし楽しいね。人から批判されることもあるけれど、自分が納得しているならいいでしょう。作品ってそういうものでしょう?自分が良いと思って作った作品には、どこかで共鳴してくれる人がいるはずだと思っている。以前、僕の作品をやっと発見したかのように、ルンルンで購入してくれた方がいてね。見てくれる人はいるんだな、と思えた瞬間だったね。