インタビュー

「こわがらなんで使って欲しい」。そんな想いで漆に携わり、54年。

宮原 正Tadashi Miyahara
マルヒデ漆器店

木目がきれいで素朴でいながら凛とした表情がある昔ながらの
「木曽春慶塗り」(きそしゅんけいぬり)の漆器や
大物家具類などを手掛けております。

インタビューに答える宮原さん

漆一筋、54年。様々な商品を手がける。

普段のお仕事についてお聞かせ下さい。

親父の家業を継いで54年になります。重箱・お弁当・お皿・お椀などの小物から、タンスや炬燵板・テーブルなども手掛けています。職人の店なのでね、直接来てくれるお客さんや平沢の問屋さんに卸すのが主ですが、仕事がなくても、動いてなくちゃ満足できんで、いろんなものをつくっているね。それで気に入ってくれたお客さんに売っています。あとは、うちで買ってくれたお客さんはよく「直してくれ」っていらっしゃいますよ。欠けちゃったり色が変わっても、手に馴染んだ漆を使い続けたいってことだね。

漆塗りのわっぱ(木曽地方ではめんぱ)

手掛ける製品の特徴はありますか? 

本来は堆朱塗(ついしゅぬり)が得意でした。でも今は昔のような堆朱はほとんど売れなくて、今風な堆朱になってきている。柄の大きさや色味なんかが昔とは違うので、「昔の堆朱を塗り直してください」ってくるお客さんもいます。“わっぱ”のことを木曽では“めんぱ”っていうのだけども、めんぱの弁当箱を、元あった色を一旦剥がしてまた塗り直すんです。お金もかかるけど、それでも愛着があって長く使いたいってことだよね。

使っていくと、漆は手に馴染んでくる。

上塗りをする宮原さん

漆器をつかうお客さまに伝えたいことはありますか?

今使っているお客さんは案外みんな普段使いしてくれていますよ。漆器は昔は自分で買うよりも贈答品でもらうことの方が多く、その後は使わずにしまい込んじゃうことが多かったです。でも、今買ってくださるお客さんは、実際に使うお客さんですね。やっぱ、普段使ってもらった方がいいよね。使っていくと、手に馴染むみたい。それで、長年使って「修理してください」、ってまたうちに持ってきてくださるんですよ。とにかく、こわがらなんで使ってほしいです。洗う時など気を使ってしまいがちだけど、普通の食器と同じで大丈夫。こわがらんことだわ。

漆を濾している様子
上塗り用の漆

「こわがらなんで使って欲しい。」漆を、日常的に。

宮原さんの漆器作品

漆器の産地は日本全国にありますが、木曽平沢の産地としての特徴は何ですか?

漆器の産地って、大抵お城があるんだわ。大名道具とか、輿入れの時なんかにも一式揃えて納めたりするものです。ただ、木曽の平沢だけは街道文化なんです。だから、庶民の漆器なんですわ。一番の違いはこれだね。旅する人やお伊勢参りに行く人なんかがお客さん。だからね、「こわがらなんで使って欲しい」ってことなのですよ。日常的に長く使ってもらって、欠けちゃったりしたら、また直して使ってくれればいいですよ。